呼ばれた気がしたので。
3月26日開催 企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議議事録
○大日方委員
もう既にアメリカとヨーロッパについては、企業の利益率が平均に回帰すること、つまり、のれんの価値は持続するものではなくて、ごく短期間のうちに消滅すると報告されています。わかりやすく言えば、のれんは規則的に償却したほうがいいという結果がアメリカでもヨーロッパでも出ていたわけです。
今回私が分析しましたのは日本企業について(非上場も含みますけれども)、約20万社を対象に23年間について研究したところ、それと同じ結果が得られ、やっぱり、のれんを規則的に償却するのが合理的であるという結果が出ました。
主要な分析結果が、あと2つあります。2番目は、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前利益、当期純利益の5つについて、利益の持続性が違っていることです。持続的であるというのは、今期得られた利益が翌年も同じように得られることをいいます。持続的でないというのは、今期黒字でも来年はよくわからないというあやふやなものだということを意味します。経常利益というのは非常に持続性は高い一方、税引前利益及び当期純利益の持続性は非常に低いことがわかりました。つまり、日本の区分計算において、異常臨時なものを経常的なものから分けている方式はきわめて重要で、これは投資家にとって非常に役に立つはずだといえます。持続的であれば将来を予測しやすいからです。どうなるかわからないものは予測しにくいので、両者を分ける区分計算は非常に重要だということが2点目です。
3点目は、海外では時系列で会計の利益の安定性が低下しているのではないかといわれています。その原因としては、会計基準が陳腐化したのではないかと、推測されています。つまり、ハードな物をつくる側からソフトなサービス提供へと経済が移ったために、今の会計モデルは陳腐化し、利益の持続性は時系列で低下しているのではないかという話があります。当然それに対して反論もかなり多くて、決着がついていなかったわけです。今回の私の研究では、利益率が産業平均に収束していくという部分を除いて考えて、きちんと検証すると、必ずしも利益の持続性は低下しているとは言えないことがわかりました。現在の会計モデルは日本のようなものづくり型会計モデルと言われることもありますが、現行の会計基準が時系列で役に立たなくなってきているとか陳腐化しているという証拠は得られなかったということが3点目です。つまり、わらわれは日本の会計制度にたいして、そんなに自信を失う必要はなくて、日本の会計制度の合理性を信じていていいというのが私のメッセージです。
で、その分析結果をまとめた一冊。はいここテストに出ます。
すみませんとても難しかったです。一夜漬けでは単位がとれません。
第1章 研究の主題
第2章 予備的考察と基本的分析
第3章 ノンパラメトリック分析
第4章 年度別分析
第5章 産業別分析(1)
第6章 産業別分析(2)
第7章 企業別分析
第8章 非線形性の分析
第9章 頑健性テスト
第10章 中央値への回帰傾向
第11章 係数パネル・データのメタ分析
第12章 誤差修正モデル
第13章 研究の総括
平均や分散などの基本的な分析(パラメトリカル分析)以外にも、「超過利益率が高いほど利益率は将来低下する」という仮説にもとづく分析(ノンパラメトリック分析)や、利益率や超過利益率の持続性が超過利益率の大きさに対して線形かどうか(非線形性分析)、「利益率は産業平均に回帰しない」という帰無仮説の棄却の根拠に対する頑健さの検証(頑健性テスト)など多岐に及ぶ。統計と回帰分析の知識がないとけっこうきついやね。
で、著者は
「企業の利益率は産業の平均水準に向けて回帰する(平均回帰する)か」
という仮説について、を300ページ超にわたり徹底した実証研究を積んでいる。
「超過利益率が高くても利益は平均回帰するので、のれんを規則的に償却するのが合理的」
すなわち
「日本基準でののれん償却は合理的な実証結果にもとづく会計基準である」
という上記引用の第1の主張を主に裏付ける内容になっている。
第13章の総括にある著者の主張は明快で辛辣だ。
・概念フレームワーク(CFR)にある「忠実表現」の中身ははあいまいで、合意されていない
・分析結果からは、のれんは規則的に償却するのが実態に合う
・IFRSの定めるのれん非償却+減損テストの扱いは実態を反映しないことを認めたうえで他にメリットがあるため義務づけられたものである
これらの結果、
「会計基準設定主体がなぜIFRSでそのような定めを行ったのか」
という問題意識があり、設定主体の意思決定が合理的であるかどうかの問題提起を行っている。著者は会計基準の策定に実証研究が反映されていないという意見に応える形で分析結果を提示しつつも「会計基準に学問的成果を反映すべき」という意見を疑問視する。学者としての誠実性から外れることなくIFRS策定主体の検討内容に一石を投じるのが本書の役割と解釈した。
IFRSの改訂作業が「高品質の単一な会計基準」というゴールのもとに実務レベルで足並みがそろわず、各国の主導権争いの道具に変容している現実を踏まえると、のれんの償却ひとつとっても実証研究にもとづいていないという事実が示す会計基準の「品質」の意義について、再度見直すきっかけができるはず。えろいひとが作ったのを口開けて待っているだけだといかんよねということでしょうか。
そういえば帰無仮説で思い出した一冊。すっかり定着した監査上のサンプリング「90%の信頼性のために25件」の根拠について、この一冊でほぼ理解できるようになっております。
こんばんは。
こちらでははじめまして!
『利益率の継続性と平均回帰』のレビュー依頼に応えていただき、ありがとうございます。
>300ページ超にわたり徹底した実証研究を積んでいる。
雰囲気から察するに、途中に面白話が挟まれるわけもなく、ハードな書物を読破された気合に敬意を表します。
レビューを読んで、なんとなく当然のこととしてやっていた「のれんの償却」にも、合理的な裏づけを取ることができることに驚きました。
大日方先生には他の会計処理についても実証研究をいただき、新書にまとめていただけないものかと願うところです。
あるいはkan65535さん、いかがですか?
投稿情報: B型が苦手 | 2013/04/17 22:33