断筆解除の時期を前後して筒井作品は読まなくなっていたが数年ぶりに読了。御大古希を過ぎても健在というか後半に進むほど加速する読書的快楽。章立てもパラグラフも設けず延々と登場人物ないしその派生の設定が語り続けるのは「文学部唯野教授」を彷彿とさせ唐突な場面転換は「富豪刑事」からの伝統か。「人世に三人あらば」でボツになったネタもちゃっかり組み込まれていて、筒井作品初心者にハードルは高めだが古いファンには集大成としての一面もある一冊。(ちなみに本ブログのタイトルは筒井さんの「新宿コンフィデンシャル」にちなんでいる。本人承諾済み)
話の本筋からはずれるが、以下のくだりが興味をひいた。
他の多くの文芸出版社が株式を上場しないのはそういう理由からで、上場したところで何の利点もないからです。つまり当然のことながら通常の企業の株主や株の世界は文学とは無縁でありそこに文学の入る余地はないということであり、一般企業と文芸出版社の、換言すれば実業と文学の世界はかほどにかけ離れた価値をそれぞれ追求していて、一般企業にとって文芸出版社などはまるで価値のないものなんです。
出版業界の事情については伝聞でしか知らないので実態はわからないが、作業量と成果物が非線形な文筆活動という活動により一定のマーケットが成り立ち、費用対効果が予測できないマーケットで作家とその周辺に対する先行投資がなされ回収可能性検討の材料は非常にこころもとなくリスクファクターは極限無限大という状況で仮に上場している出版社に投資家としていくばくかの財を投じるかといえばまあ投じないわな。文壇とそれをとりまく多くにおいて定性的評価軸が支配しているであろう空間は数字とROIばかり追いかけている世知辛い自分には理解不能な部分が多すぎて世の中いろいろな世界があって楽しいな。
しかし筒井さんの文学的執念というか文壇への危機感は相当に深く重くこのままヨッパ谷を降下するようにその懊悩は加速していくのだろうなと思いをはせつつ一野次馬読者として引き続き見守りたい一方でそろそろ例の痴呆老人小説に着手する時期なのだろうかとワクテカした。
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